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八ツ田和夫さんは兵庫県の山よりの町で小学校教師をしています。その町はいわゆる郊外のベッドタウンで、受け持つ生徒たちも余所の土地から引っ越してきた子たちが殆どです。八ツ田和夫さんは元々その町の出身で、町内でも数少ない地元民です。そんな彼にとって、都会であったりさらに田舎であったり、様々な土地からやってくる子どもたちはなかなか興味深くもあるのでしょう。海沿いの町から来た少年の釣り話に目を輝かせたり、都会のオシャレなお店に詳しい少女の話に気後れしたり、同じ目線で話しています。先生のそんな様子に、最初は遠巻きに見ていた生徒たちも、いつしか一緒になって転校生の話を聞き始めます。休み時間は先生と生徒とがひとつのかたまりになって、転校生を囲んでいる光景がよく見られました。いつしか子どもたち同士で会話が進むようになり、転校生も次第にこの学校の生徒なんだという顔をするようになります。八ツ田和夫さんはそうやって、自然と生徒を溶け込ませることができるのです。

八ツ田和夫先生は子どもと同じ目線で話すことができるので生徒からはとても好かれています。ですが、尊敬の念というよりも友達感覚なので、小学生の監督者として大丈夫なのかと心配する声が上がっているのも事実です。実際は、悪いことは悪いときちんと叱る強さもあるのですが、教室内のことはなかなか保護者には伝わりません。優しく柔和な顔立ち、どちらかというとぬいぐるみに似た丸みを帯びた体型は、まだ若く独身であることと相まって、なんとなく頼りないという印象を与えてしまうのです。それでも、持ち前の愛きょうからか、最終的には苦笑されながら「仕方ないね」と優しく言われて全てが丸く収まります。これが八ツ田和夫さん持ち前の人徳なのでしょうか。

八ツ田和夫さんは昔から教師を目指していたわけではありません。ただ、目の前にある課題をこなして一歩一歩前進することに集中していたら、教師を選べる地点に到着していたという印象です。彼が最終的に小学校教師を選んだのには育てたいという衝動があったからでした。
八ツ田和夫さんは現在も実家に暮らしているのですが、実家では盲導犬候補の子犬を育てるボランティアをしています。彼は幼少期から子犬との出会いと別れを繰り返してきました。盲導犬候補の子犬たちは、10ヵ月経つと正式な訓練のために手元から離れていくのです。別個体だからずっと一緒にいることはできない。それでも、10ヵ月よりもう少し長く成長に関わりたい。それが、教師になった理由です。彼は、別離を最初から受け入れているからこそ、一個人として生徒と接することができるのです。子どもたちはそれを敏感に察して先生を信頼します。気付かれにくいのかもしれませんが、小学校教師は八ツ田和夫さんにとっての天職なのです。

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